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【材料力学】各材料の機械的性質の調べ方(引張強さ・降伏点(耐力)・弾性係数など)

      2022/12/21

材料力学の参考書籍を見ても、各種材料の縦弾性係数や引張強さの一覧表、みたいなのはあまり載っていません。
もちろん、材料の強度や変形について研究する学問なので、個別の材料について詳しく説明しないのは仕方のないこと。

とは言え、実際に機械を設計するときは、使用する材料の機械的性質を知っておくことは必須。
ネットを調べればそれっぽい数字はすぐ知れますが、上司や客先に提出する資料や計算書にその数値を採用して大丈夫でしょうか?
突っ込まれても慌てないために、根拠のある数値の調べ方を説明します。

おまけで、いくつかの材料の機械的性質の一覧表を掲載しますが、あくまで参考としてください。

設計上許される応力「許容応力」の求め方については下記記事が参考になります。

材料の機械的性質とは?

機械設計に使う材料の機械的性質とは、そもそも何なのでしょうか?
材料の機械的性質とは、力学的な特性のことで下記のようなものです。

  • 引張強さ
  • 降伏点(耐力)
  • 縦弾性係数
  • 横弾性係数
  • 硬さ
  • 伸び

特に、引張強さ、降伏点(または耐力)、弾性係数は重要で、これらの値が分からないと部品の寸法を正しく決めることが出来ません。
引張強さや降伏点(または耐力)はどれほどの荷重で壊れるかを表し、縦・横弾性係数は荷重を加えた時の変形量を計算するのに必要になります。

主に引張強さ、降伏点(または耐力)、弾性係数について、どのように確認すればよいのかを見ていきましょう。

方法1 社内規格として規定されてないか確認する

あなたがどこかの会社などの組織に属して機械設計をしている場合、その会社の規定として「SS400の降伏点は〇〇 MPaで計算する」みたいに決められているかも知れません。
会社としての方針なので、まずはそれに従うのが原則となるでしょう。
上司等に一度確認してみるのが確実です。

会社として特に決められてない場合は、次の方法で調べてください。

方法2 金属材料は極力JIS規格を参照する

日本でものづくりをする以上は、JIS(日本産業規格)で規定されている材料を使うことが多いと思います。

SS400、SUS304、S45C、A5052、C2801等、機械設計をしているとよく耳にする材料記号はJISで規定されたものです。
これらの材料の引張強さ、降伏点(耐力)はJISを調べれば分かるものが多いです。

JIS規格はありがたいことに、登録すれば無料ですべて閲覧が可能。
会社などに所属してない個人でも登録出来ます。
ただし保存や印刷はできず、閲覧のみ可能です。

下記リンク先にてJIS規格番号や規格名称から検索出来ます。

日本産業標準調査会

JIS「B8205 圧力容器の構造-一般事項」がとても参考になる

各材質ごとに個別にJIS規格がありますが、中でも注目したいのが「B8205 圧力容器の構造-一般事項」と言う規格。
別に圧力容器を設計しないから関係ないかな、とスルーしがちですが、これがすごい情報量なんですよ。

全300ページ近くもあり、その中で80ページ近くにわたり多くの金属材料(鉄系、ステンレス系、アルミ系、銅系、チタン、ボルト材料等)の引張強さ、降伏点(耐力)、縦弾性係数のデータがびっしり載っています。
各金属材料個別のJIS規格番号も併記されているので、必要があればそちらも検索して参照できますね。

特に許容応力、降伏点(耐力)、縦弾性係数、線膨張係数は温度ごとのデータが掲載されています。
ここまで細かいデータは材料個別のJIS規格にも載っていません。(特に縦弾性係数や線膨張係数)
圧力容器に限らず、高い温度で使う機械設計では必見です。

↓このようなデータが延々と載ってます。(JISの閲覧時にIDのスカシが表示されるのでぼかしています)

他に、主だった金属材料の個別JIS規格は下記のようなものがありますが、他にも膨大にあるので、検索してみてください。
角パイプなどの形鋼材もあります。

  • G3101 一般構造用圧延鋼材 (SS400等)
  • H4000 アルミ材料 (A5052等)
  • G4304 ステンレス (SUS304等)
  • H3100 銅合金 (耐力は一部しか記載がない)
  • H3110 りん青銅 (耐力の記載なし)
  • H3130 ばね用のベリリウム銅,チタン銅,りん青銅,ニッケル-すず銅,洋白
  • G5501-1995 ねずみ鋳鉄
  • JIS G4051 機械構造用炭素鋼(S45C等) (降伏点、引張強度の記載がない。古いJISにはあったらしい)
  • JIS G4053 機械構造用合金鋼(SCM435等) (成分の規定はあるが強度の記載なし。)

方法3 独自規格の鋼材は材料メーカーのデータを参照する

一般の機械で材料を指定する場合は「SS400」や「SUS304」などJISの材料名を指定することが多いと思います。
しかし建設機械やプラント関係などでは、「このメーカーのこの型番の鋼材」と指定されることもあります。

鋼材メーカー(日本製鉄やJFEスチール等)はJIS規格品はもちろん、日本鉄鋼連盟規格や外国の規格、さらに独自の自社規格のハイスペックな鋼材を製造しています。
自社規格の鋼材はもちろんJISには載ってないので、メーカーのカタログやデータシートを参照しましょう。

方法4 機械設計製図便覧などの資料を参照

機械設計者に愛用者が多い「機械設計製図便覧」や、他にも機械工学便覧や金属便覧等の「〇〇便覧」や「〇〇ハンドブック」的なものにも材料の機械的性質について記載があるかも知れませんので、調べる価値はありそうです。
図書館に行けば、貸出禁止ですが置いてることが多いです。

機械設計製図便覧の第5章「機械材料」に各種材料の引張強さなど掲載されています。
例えば以下の材料など。

  • 一般構造用圧延鋼材 (JIS G3101:2017)
  • ボイラおよび圧力容器用炭素鋼およびモリブデン鋼鋼板 (JIS G3103:2019)
  • リベット用丸鋼 (JIS G3104)

ただし機械設計製図便覧の内容の多くはJISを元にしているため、JISに載ってないものは分からない可能性が高いです。

他に変わったものだとスギやヒノキなど木材の強さについても記載があります。
コンクリートの圧縮強度やエポキシ接着剤のせん断強度のデータも載っています。

第4章「材料力学」には「軟鋼」、「黄銅」、「アルミニウム」、「銅」等ざっくりした材質ごとの縦・横弾性係数、弾性限度、降伏点、極限強さについても記載があります。

方法5 JISに載ってないときは鋼材メーカーの資料を参照

例えばSCM435はJISでは成分の規定はありますが、引張強さなどの機械的性質は規定されていません。
そんな材料でも鋼材メーカーが参考として数値を出していることがあります。

https://www.kobelco.co.jp/products/download/steel-aluminum/files/wirerod_standard.pdf

自社で試験を実施したものなのかは分かりませんが、数値の根拠を尋ねられた時に「どっかの個人ブログから引用しました!」よりは「鋼材メーカーの資料より引用しました」という方が納得感が高いかと思います。
設計において、相手を納得させられるかって結構大事ですよね。

方法6 樹脂はメーカーのデータシートを参照する

樹脂材料はJISで強度について規定されてないので、樹脂メーカーのカタログやデータシートを参照しましょう。
例え同じABSでも、メーカー、グレードによって物性が大きく異なるため、「ABSの引張強さはこれ!」と言った断定的な数値はありません。

複数メーカー、複数グレードを比較して樹脂種類ごとの大まかな値をつかんでおけば良いかと思います。

方法7 建築関係の法令も参考になるかも

私自身は建築の分野に詳しくないですが、以下リンク先の国土交通省の資料で材料強度(F値)について記載があります。

鋼材等及び溶接部の許容応力度並びに材料強度の基準強度を定める件
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006510.pdf

官庁が公表している資料であれば、引用元の信頼性としては問題ないかと思います。

建築では材料の強度をF値と呼び、多くの場合は材料の降伏点を指します。

せん断強さはどうやって知る?

引張強さはJISで定められているものも多いですが、せん断に対する強さについては規定されていません。

「JIS B8265 圧力容器の構造-一般事項 」にこのような記載があります。

4.3.2項「設計温度における材料の許容せん断応力は許容引張応力の0.8倍とする。」

つまり、引張強さが400 MPaだった場合320 MPaでせん断破壊すると考えるわけです。

$$\LARGE
400\times0.8=320[MPa]
$$

引っ張りの降伏点が245 MPaだった場合は196 MPaのせん断応力で降伏する、と考えます。

$$\LARGE
245\times0.8=196[MPa]
$$

他には引張強さや降伏点を√3で割った値をせん断強さ、せん断降伏点とする考え方もあります。
√3で割るということは、0.57735 ≒ 0.6倍という事。

JIS B8265では0.8倍でしたが、こちらは0.6倍と値が異なります。
0.6倍とするほうが、せん断に対する強さが小さくなる → より安全側の設計と言えます。
建築関係では圧縮、ひっぱり、曲げに対しては材料強度(F値)を用い、せん断に対してはF値/√3の値を用いると建築基準法で定められています。

機械設計の分野だと、せん断に対する強度をいくらにするかは諸説あり困りますが、法令で決まっていたら迷わずに済みますね。

0.8倍の方はあくまで圧力容器についてのJISに掲載されていたので、一般の機械にまで適用していいかは謎です。
結局は各自の考え方次第ですが、0.6倍を採用した方が安全側なので無難ではあります。

横弾性係数はどうやって知る?

今まで説明した方法でも、横弾性係数が分からない!ってことがあるかも知れません。
多くの材料では、横弾性係数は縦弾性係数のおよそ40%の値になります。
例えば、軟鋼だと

縦弾性係数 206 GPa
横弾性係数 79.4 GPa

となりますが、206 / 79.4 = 0.385となり、およそ0.4倍(40%)になります。

調べても横弾性係数が分からないときは、最悪この方法でしのぎましょう。

【おまけ】各種材質の機械的性質まとめ

私がまとめた各種材質の弾性係数や引張強さなどの一覧です。
冒頭にも書いたように、このような個人ブログに書かれた情報はあまり信用しないほうがよいので、重要な設計ではJIS規格等の信頼できる情報源の数値をもとにするのが原則です。
なので以下の表は自分用のメモのような位置づけですが、そんな重要じゃない場面で、ざっくり値を確認するのに活用してもらえれば。

※熱処理条件等により数値が大きく変動することがあります。正確な値は規格等で確認してください。
※樹脂材料の縦弾性係数は引張弾性率を記載
※樹脂材料の横弾性係数は縦弾性係数の40%とした場合の目安

材質 縦弾性係数 E [MPa (N/mm2)] 横弾性係数 G [MPa (N/mm2)] 降伏点 [MPa (N/mm2)] 引張強さ [MPa (N/mm2)] 備考
軟鋼(SS400) 206,000 79,000 245 400~510
鋼(SCM435) 214,000 83,000 785 930
ステンレス(SUS304) 193,000 74,000 205 520
リン青銅(C5191) 105,000 40,000 315
アルミニウム(A5052) 72,000 26,000 65 170~215
銅(C1100) 118,000 44,000 69以上 195以上
樹脂(ABS) 3,050 1,220 61 61 デンカ GR-0500
樹脂(PP) 1,500 600 34 34 日本ポリプロ MA3
樹脂(PE) 1,000 400 24 24 旭化成 J300 (サンテックHD)
樹脂(PMMA) 3,300 1,320 67 クラレ GF
樹脂(POM) 2,350 940 54 ポリプラスチックス AW-01
樹脂(PC) 2,400 960 61 帝人 L-1225L
樹脂(PA66) 3,000 1,200 82 82 旭化成 1300S

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