500万円前後の業務用3Dプリンター(インクジェット方式)を選定することになった
勤めている会社から突然、「3Dプリンタを買うから、機種の選定よろしく。」と指令が下りました。
えっ?俺が選んでいいの?
「あったらいろいろと便利そうだなー、買ってくれないかなー」と前から思ってただけに、これは嬉しい。
なんでも「ものづくり補助金」とやらが国から出るそうなので、それを利用して3Dプリンタを買うことになったそうです。
通るかどうか分からないけど、申請のために色々を動いてたら、うっかり通りそうなので、急いで機種を選定しなきゃならん、ということらしい。
私にしてみれば、3Dプリンタさえ手に入れば補助金のことはあまり興味はないです。
さあ、どれにしようかな。
3Dプリンタは何に使う?
会社から出された条件は、
- 300万円くらい補助金が出るので、300万円+αくらいの価格で
- でも、安物を買って使い物にならなくても困るので、ちょっと高くてもちゃんと使えるやつ
- 射出成形品の金型製作前の試作が出来るようなやつ
みたいな感じで、具体的な機種や、3Dプリントの方式はすべて任せる、という内容。
私も含めて、3Dプリンタに詳しい人間が社内にいないですからね。
依頼内容もかなりざっくりしてます。
射出成形品と言うのは、私達の身の回りにあるプラスチック製品のほとんどが射出成形品です。
たい焼きの型に記事やあんこの代わりに、溶かしたプラスチックをぶち込めばたい焼きの形になる。
原理的にはこういうことです。
成形品の試作だけじゃ、正直使う頻度が少ないのため、これに加えて私が次の条件も加えました。
- 治具の製作にも利用できる
社内の工場で製品の組立時にあると作業がはかどる道具、それが「治具(じぐ)」です。
私が治具を設計、製作することが多いんですが、3Dプリンタを取り入れることにより、今まで出来なかったことや、今までより楽ができることが増えるかもしれません。
3Dプリンタには前から興味があったのでちょこちょこ調べたりしてましたが、実際に選ぶとなると悩みます。
しかも、補助金の絡みで機種の決定まであまり時間がないとのこと。
安い買い物じゃないんだから、出来ればじっくり選びたかったですが、時間がないので一気に行きます!
3Dプリンタの方式はどれを選ぶ?
3Dプリンタの方式は下記のような方式があります。
- FDM
- インクジェット(マテリアルジェット)
- インクジェット(バインダージェット)
- 粉末焼結
- 光造形
各方式の詳しい特徴はこちらの記事で紹介しています。
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3Dプリンタの各方式の特徴と価格
今回の機種選定で、射出成形品の試作と言う目的のためには、積層跡がはっきりと分かり仕上がりの精細さに欠けるFDM形式がまず候補から消えます。
形状の確認だけじゃなく、ある程度の機能確認も出来ないと困ります。
例えばプラスチックの2つの部品をぱちんと嵌める「スナップフィット」と言う方法がありますが、3Dプリントの造形物があまりに脆いとこれが出来ずに割れてしまいます。
となると、石膏の粉を固めて造形するインクジェット(バインダージェット)も消えます。
残るは、
- インクジェット(マテリアルジェット)
- 粉末焼結
- 光造形
となりますが、粉末焼結も光造形も本体が1000万円以上と高価です。
これはさすがに予算オーバーのため買えません。
と言うことは残ったインクジェット(マテリアルジェット)方式の3Dプリンタで考えることにします。
3Dプリンターのメーカーと選定した機種
インクジェット方式の3Dプリンターと言えば、Stratasys(ストラタシス)と3D Systemsが全世界の90%のシェアを握っているそうです。
そこへ割って入ったのが日本のメーカー、キーエンス(KEYENCE)。
他にもメーカーがあるのかもしれませんが、この3社の中から選ぶというのが現実的な選択肢になりそうです。
今回は時間もなかったので、これ以上調べてる暇はなかったですし。
最初、ストラタシスのObjet30 proとキーエンスのAGILISTA-3200が良さそうだと思い、検討のため見積もりを依頼しました。
Objet30 proは商社Aへ、AGILISTA-3200はメーカーであるキーヘンスへ直接見積り依頼。
この時点では私的には「Objet30 proかなー」って思ってました。
Objet30 proの方が、使用できる樹脂の種類が多いんですよ。
- 硬質不透明ホワイト(VeroWhitePlus)
- 硬質不透明ブラック(VeroBlackPlus)
- 硬質不透明ブルー(VeroBlue)
- 硬質不透明グレー(VeroGray)
- 透明(VeroClear)
- 耐熱性材料(RGD525)
- ポリプロピレンライクEndur(RDG450)
- ポリプロピレンライクDurus(RDG430)
と、8種類使えます。
一方キーエンスのAGILISTA-3200は
透明樹脂(AR-M2)
耐熱樹脂(AR-H1)
のたった2種類。
白とか黒とかの色付きの樹脂がありません。
使える材料の種類が多いのと少ないの、どっちが良いかって言うと、やっぱり多いほうが良いですよね。
そして、見積もりを進める過程で3D SystemsのProjet MJP 2500plusが候補に加わりました。
ストラタシスObjet30 proを見積り依頼した商社Aが、
「Objet30 proは、うちではあんまりいい値段出せそうにないので、3D SystemsのProjet MJP2500plusを提案します。」
とか言って。
それにより、Objet30 proは改めて商社Bへ見積もりを依頼しました。
Projet MJP 2500plusが使える材料は、
- 硬質白(VisiJet M2RWT)
- 硬質ブラック(VisiJet M2RBK)
- 硬質透明(VisiJet M2RCL)
- エラストマー(ゴムライク)ナチュラル(VisiJet M2ENT)
- エラストマー(ゴムライク)ブラック(VisiJet M2EBK)
キーエンスよりは使える樹脂が多いですね。
この機種は全くのノーチェックで知らなかったんですが、どうも数カ月前に発売されたばかりの新機種のようです。
調べてみると、悪くはなさそうです。
3Dプリンターのお値段
3Dプリンターの購入、運用にどれくらいの費用がかかるのかも重要な要素です。
購入時にかかる費用については、長くなるのでこちらの記事でまとめています。
材料費等のランニングコストはこちらの記事に書きました。
インクジェット方式3Dプリンターの材料費は?ランニングコストも結構かかります。
今回の選定では、同価格帯の3Dプリンターを比較して、「ちょっと高くてもちゃんと使えそうなものを選んでね。」と言われています。
もちろん、上を見ればきりがないので限度がありますが、正直価格はそんなに気にせずに選びました。
3Dプリンタの設置環境|稼働時はエアコンが必須!
これはどの機種も同じなんですが、3Dプリンターの稼働時はエアコンが必須となります。
と言うのも、使用周囲温度が決まっていて、それを外れていると造形不良など上手く動作しないことがあるためです。
例えばキーエンスのAGILISTA-3200の使用周囲温度は18~25℃
夏場だと、かなりクーラーをガンガンにかけないといけませんね。
この温度だと、ちょっと寒く感じる程じゃないでしょうか。
まあ、ちょっと位この条件から外れても動くみたいですけど。
なので、設置する場所にエアコンがあるかどうかは確認しておいたほうがいいです。
私の場合は、設置する部屋が二転三転して、危うくエアコンがない部屋があてがわれそうになりました。
Objet 30proは制御用にパソコンが必要
AGILISTA-3200とProjet MJP 2500plusは、自分のPCとLANで接続して使用できます。
普通のネットワークプリンタとおなじ感覚ですね。
データを3Dプリンターに送ってしまってから造形するので、造形中にLANの通信が切れても問題ありません。
しかし、ストラタシスのObjet30proは、動かすためにPCが一台必要になります。
どうも、造形のためのデータを、造形しながらちょっとずつ送ると言う仕組みのようです。
そのため、何らかの理由でPCと3Dプリンターの接続が切れてしまったら造形を続けることが出来なくなります。
3Dプリンター購入費用の記事に書いた値段にはパソコンの価格は含まれていないので、新規購入する場合はその費用も見越して置かなければいけません。
どっちが良いかというと、個人的には余計なPCを使わないAGILISTA-3200かProjet MJP 2500plusの方が良いですかね。
PCが増えたら、その管理も面倒ですから。
造形物の強度と見た目について
今回の選定で、一番重要と言って良いのがこれ。
造形物の強度と、どれだけキレイな見た目で造形できるか、です。
まあ、うちの会社での使い方としては、見た目はそこそこだったらそれでいいんです。
どちらかと言うと、強度の方が大事ですね。
すぐに割れるようでは困ります。
その辺を比較したのがこちらの記事です。
インクジェット3Dプリンター造形物の強度は?造形サンプル比較
そして、見た目を比較したのがこちらの記事。
インクジェット3Dプリンター造形物の外観を比較。どれが一番見た目がキレイ?
見た目は、まあどれを選んでも許せそうなレベルです。
強度については、ちょっと割れやすいProjet MJP 2500plusはナシかなと思います。
見た目はキレイなんですけどね。
Objet30 proのPPライクの樹脂はちょっと判断しにくいところ。
使い物になるのかどうかよく分かりません。
Objet30 proの硬質透明樹脂(VeroClear)とAGILISTA-3200のAR-M2は、試験結果では差が見えてこなかったですが、実際に触った感じではAGILISTA-3200の方が割れにくそうな雰囲気です。
3Dプリンターの使い勝手やサポートの除去について
3Dプリンターを導入したとして、実際に使うことになるのは他ならぬ私です。
できれば取り扱いが面倒じゃなくて、簡単な方がいいですよね。
その辺の違いを詳細に検証することは出来なかったんですが、キーエンスのAGILISTA-3200は使い勝手にもかなりこだわって作られている印象を受けました。
造形のためのローラーの掃除の時は、掃除モードにすればローラーが自動で回って拭きやすくなる、など。
そして3Dプリンタで一番手間がかかると思われるのがサポートの除去。
プリント自体はデータを送ってスタートさせれば放っておけば出来上がりますが、サポートの除去は手作業でやらないといけません。
この作業がどれだけ簡単にできるか、と言うのが、3Dプリンターの扱いやすさを大きく左右します。
サポート材については、こちらの記事にまとめました。
インクジェット3Dプリンターのサポート材を機種ごとに比較してみた
比較してみて感じたのは、Objet30 proのウォータージェットによる除去はちょっと手間がかかりそうなので遠慮したいです。
造形物が多くても、一つ一つ処理していくしかありません。
スチームでサポート材を溶かす方式のProjet MJP 2500plusは、数が複数あってもまとめて処理することが出来るのでちょっとマシですね。
でも油に漬けたり超音波洗浄したりというのは、結構手間が掛かりそうです。
AGILISTA-3200の水溶性サポートは、この中では一番良さそうです。
まとめて水に漬けて処理することも出来ますし、手作業で除去することも可能。
かなり柔らかいので、水を使わなくてもある程度除去出来ます。
最終的に選んだのはキーエンスAGILISTA-3200!
いろんな項目を比較してみて、最終的にキーエンスのAGILISTA-3200に決まりました!
造形物の強度的にも合格レベル。
造形物のキレイさはもうちょっと頑張って欲しいところですが、まあOKでしょう。
そして、サポートの除去がこの中では一番手間がかからなさそうと言うのも、大きな理由です。
Objet30 proのようなウォータージェットで除去ってのは、面倒くさそう。
あと、選定の決め手というわけではないですが、キーエンスの営業の方は、営業が上手です。
ごりごり押しが強いとかじゃなく、必要な情報を過不足なく伝えてくれる感じです。
良い営業と言うのは、こういうことなのかもしれない。
まとめ
3Dプリンター、かなり高価な機械ですからね。
社内でも「それ、わざわざ買う必要あるの?」みたいな声も少なからず出ています。
気軽に依頼できる3Dプリントサービスも色々ありますからね。
この金額分を有効活用出来るか分かりませんが、正直言ってかなりわくわくしてます。
新しいおもちゃを買ってもらう時の気分ですね。
今から楽しみです。
余談ですが、今回比較した3Dプリンターのうちの一つ、ストラタシスのObjet30 proはなんとamazonで買えます。
Stratasys プロフェッショナル向けデスクトップ3Dプリンタ Objet30Pro
2~3日以内に発送って…
今すぐにインクジェット方式の3Dプリンターが必要な方は是非どうぞ。
って、誰がamazonで買うの?