【機械設計】ボルト、ナットの強度区分と選び方
ボルトやナットの強さを表す「強度区分」がJISで定められています。
ボルトの頭になんか数字が書いてあって、強度区分って言うのは聞いたことあるけど、これが何なのか詳しく知らない・・・、と言う人も多いんじゃないでしょうか?
機械設計に携わる設計者なら、強度区分について知っておいて損はありません。
この記事でを読むと強度区分について理解を深められます。
この記事の目次
強度区分とは
強度区分は、ざっくりいうとその名の通りボルトやナットの強さを定めたもので、「強度区分12.9の六角ボルト」と言った形でボルトが売られていたりします。
強度区分は下記のものがJIS規格で規定されています。
- 鋼製ボルト (JIS B1051)
- ステンレス製ボルト (JIS B1054-1)
- 鋼製ナット (JIS B1052-2)
- ステンレス製ナット (JIS B1054-2)
- 平座金 (JIS B1061)
鋼製(鉄製)のボルトとステンレス製のボルトでは強度区分の表示方法が異なり、鋼製ボルトは「12.9」のような形で、ステンレス製ボルトは「A2-70」と言った形で表示されます。
ちなみに、ボルトやナットには強度区分がないものもあります。
六角穴付きボルト等は強度区分が規定されているものがおおいですが、なべ小ねじ等は強度区分が規定されずに販売されているものが多いです。
鋼製ボルトの強度区分 「JIS B1051」
鋼製ボルトの強度区分は「JIS B1051」で規定されていて、9種類あります。
強度区分 (JISB1051) | 4.6 | 4.8 | 5.6 | 5.8 | 6.8 | 8.8 | 9.8 | 10.9 | 12.9 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
呼び引張強さ(N/mm2) | 400 | 400 | 500 | 500 | 600 | 800 | 900 | 1000 | 1200 |
下降伏応力 | 240 | 320 | 300 | 400 | 480 | 640 | 720 | 900 | 1080 |
「4.6」や「12.9」の数字の意味ですが、小数点より前の数字 × 100が呼び引張強さ[N/mm2]となります。
例えば強度区分4.6なら、
4 × 100 = 400
すなわち呼び引張強さは400 N/mm2となります。
小数点より後の数字は呼び降伏点を表していて、
強度区分4.6なら、呼び引張強さの60%が呼び降伏応力
強度区分12.9なら、呼び引張強さの90%が呼び降伏応力
となります。
表示方法のルールさえ知っていれば、強度区分の数字を見れば引張強さと降伏応力が計算できます。
鋼製ボルトの強度区分には、呼び引張強さや呼び降伏応力の他に「保証荷重」が決められていて、JIS規格にはボルトサイズと強度区分ごとの保証荷重の一覧表が掲載されています。
この保証荷重以下の使用であれば、ねじを締めたり緩めたり繰り返しても問題が起きないとされてます。
この保証荷重は、降伏応力と有効断面積から計算される荷重の90%程度の値となっているようです。
降伏応力よりも保証荷重のほうが安全よりなため、ボルトを選定する際は、この保証荷重で考えるとよいでしょう。
ステンレスボルトの強度区分 「JIS B1054-1」
ステンレスボルトの強度区分は「JIS B1054-1」で規定されています。
鋼製ボルトに比べてステンレスボルトの強度区分は若干ややこしく、ステンレスの鋼種によっても表示が異なります。
鋼種分類 | 鋼種区分 | 強度区分 | 引張強さ[MPa] | 永久伸び0.2%耐力[MPa] | 破断後の伸び[mm] |
---|---|---|---|---|---|
オーステナイト系 | A1, A2, A3, A4, A5 | 50 | 500 | 210 | 0.6d |
70 | 700 | 450 | 0.4d | ||
80 | 800 | 600 | 0.3d | ||
マルテンサイト系 | C1 | 50 | 500 | 250 | 0.2d |
70 | 700 | 410 | |||
110 | 1100 | 820 | |||
C3 | 80 | 800 | 640 | ||
C4 | 50 | 500 | 250 | ||
70 | 700 | 410 | |||
フェライト系 | F1 | 45 | 450 | 250 | |
60 | 600 | 410 |
ステンレスボルトの強度区分は「A2-70」のように表示され、この場合の「A2」が鋼種、「70」が引張強さ[MPa]の10%を表します。
鋼製ボルトの強度区分と違って、0.2%耐力(鋼製ボルトの降伏応力に相当)は強度区分の数字だけを見ても計算できないため、覚えておくか規格を参照する必要があります。
鋼製ナットの強度区分 「JIS B1052-2」
JIS B1052-2では鋼製ナットの強度区分の他に、ナットの「スタイル」が規定されています。
違いはナットの高さ(厚さ)。
スタイル2高ナット | ナット高さ0.9D以上 |
---|---|
スタイル1並高さナット | ナット高さ0.8D以上 |
スタイル0低ナット | ナット高さ0.45D以上0.8D未満 |
ナットの強度区分は相手側の鋼製ボルトの強度区分に対応していて、下表の組み合わせで使用できます。
ナットの強度区分 | 組み合わせて用いることのできるおねじ部品の最大強度区分 |
---|---|
5 | 5.8 |
6 | 6.8 |
8 | 8.8 |
9 | 9.8 |
10 | 10.9 |
12 | 12.9 |
ただし、ナットの強度はボルトより高い必要があり、表の組み合わせより高いナットの強度区分を用いても問題ありません。
ナット・ボルトの強度区分組み合わせ | 使用可否 |
---|---|
ナット 8、ボルト 8.8 | OK |
ナット 10、ボルト 8.8 | OK |
ナット 6、ボルト 8.8 | NG |
ナットの強度区分には他にも「04」、「05」がありますが、低ナット用の強度区分になります。
JISでは「保証荷重試験力」が規定されていて、ナットの呼びサイズ、強度区分ごとの保証荷重[N]が記載されています。
ナットのネジ山は損傷しない荷重の目安となります。
ステンレス製ナットの強度区分 「JIS B1054-2」
ステンレスナットの強度区分は、ステンレスボルトと同じように「A2-70」のように表します。
ボルトと同じく前方の「A2」が鋼種区分、後方の「70」が強度区分です。
強度区分の数字の頭に「0」がついたものは、高さが低いナットで、強度的にも低くなります。
鋼種区分、強度区分の一覧は次の表のとおりです。
鋼種分類 | 鋼種区分 | 強度区分 m>=0.8D |
強度区分 0.5D<=m<0.8D |
保証荷重応力[MPa] m>=0.8D |
保証荷重応力 [MPa] 0.5D<=m<0.8D |
---|---|---|---|---|---|
オーステナイト系 | A1, A2, A3, A4, A5 | 50 | 025 | 500 | 250 |
70 | 035 | 700 | 350 | ||
80 | 040 | 800 | 400 | ||
マルテンサイト系 | C1 | 50 | 025 | 500 | 250 |
70 | – | 700 | 550 | ||
110 | 055 | 1100 | 400 | ||
C3 | 80 | 040 | 800 | 400 | |
C4 | 50 | – | 500 | – | |
70 | 035 | 700 | 350 | ||
フェライト系 | F1 | 45 | 020 | 450 | 200 |
60 | 030 | 600 | 300 |
ちなみに5 mm以上のナットには「製造業者」、「鋼種区分」、「強度区分」の表示が必須となっているそうです。
刻印の代わりに、側面に切り欠きを設けて鋼種区分を表すパターンもあります。
強度区分の利用方法・ボルトが破断する荷重が分かる
強度区分によりボルトの引張強さが分かりましたが、これだけだと具体的にどのように利用すればよいのか分かりにくいですよね。
少しだけ材料力学の話になりますが、引張強さ × ボルトの有効断面積により破断する荷重が求められます。
W=σA\LARGE W=\sigma A
σ(シグマ) | 応力 [MPa] |
---|---|
W | 荷重 [N] |
A | 断面積 [mm2] |
メートル並目ねじの有効断面積
ねじの呼び | 有効断面積 [mm2] | ねじの呼び | 有効断面積 [mm2] |
---|---|---|---|
M1 | 0.46 | M10 | 58 |
M1.2 | 0.732 | M12 | 84.3 |
M1.4 | 0.983 | M14 | 115 |
M1.6 | 1.27 | M16 | 157 |
M1.8 | 1.7 | M18 | 192 |
M2 | 2.07 | M20 | 245 |
M2.5 | 3.39 | M22 | 303 |
M3 | 5.03 | M24 | 353 |
M3.5 | 6.78 | M27 | 459 |
M4 | 8.78 | M30 | 561 |
M5 | 14.2 | M36 | 817 |
M6 | 20.1 | M39 | 976 |
M7 | 28.9 | M42 | 1120 |
M8 | 36.6 | M45 | 1310 |
例えば強度区分4.6のM5ボルトがあったとして、下記の引張強さ、降伏点です。
- 引張強さが400 MPa
- 降伏点が240 MPa
M5の有効断面積が14.2 mm2なので下記計算にて破断する荷重が計算できます。
(引張強さ)400 × (有効断面積)14.2 = (破断する荷重)5680 [N]
このボルトを引っ張ったら、5680 Nでちぎれるんだな、ということで設計の目安となります。
降伏点で考えるなら、
(降伏点)240 × (有効断面積)14.2 = (破断する荷重)3408 [N]
と言う計算により、3408 Nで降伏すると分かります。
(ボルトが少し伸びて、荷重を除去しても元の寸法に戻らない)
保証荷重が決められているボルトの場合は、荷重がずばりJIS規格に載ってるので、安全に使える荷重が知りたいだけの場合はこのような計算は不要です。
ちなみにM5 強度区分4.6のボルトの保証荷重は3200 Nです。
余談ですが、ボルトが引っ張られて千切れる時、ボルトを締め付けるトルクの違いはあまり関係ありません。
下記の記事でその辺のことを考察しているので興味があればご覧ください。
強度区分の選択方法
鋼製のボルトだけ見ても、強度区分が9種類もあります。
設計時にどのように選択すれば良いのでしょうか?
基本的には高い締め付けトルクが必要、つまり高い軸力が必要な時は強度区分の高いボルトが必要になります。
下記表はトルクレンチ等ネジ締め機器大手の東日製作所の技術資料からの引用ですが、一般機械にはボルトの強度区分4.6~6.8が推奨されています。
一つの参考にされてはいかがでしょうか。
用途 | ボルトの強度区分 | T系列の使用区分 |
---|---|---|
一般用途 | 4.6~6.8 | 基準T系列 |
車両、エンジン | 8.8~12.9 | 1.8T系列 |
建設 | 10.9~12.9 | 2.4T系列 |
ちなみにボルトの締め付けトルクに関して、「T系列」はよく聞く言葉ですが、JIS規格などではなく、東日製作所が提案している規格です。
このT系列のトルクでボルトを締めるのが絶対の正解ではありません。
基準T系列にしたがってボルトを締めた場合、ボルトが破断する軸力の半分以下しか発生しないことになるのですが、場合によっては軸力が不足するかもしれません。
必要な軸力や、締結対象の強度によって選択してください。
・・・とはいえ、現実的には締結箇所によってボルトの強度区分をわざわざ変えてないことが多いんじゃないでしょうか。
一般的な機械や装置類の場合、そこまですると管理するのが大変になります。
強度区分12.9以上のボルトは「遅れ破壊」に要注意!
強度区分12.9などの強度の高いボルトは、「遅れ破壊」と呼ばれる現象に注意が必要です。
ボルトのクラックが徐々に進展していき、何年後に突然脆性破壊します。
予測も困難なので、可能であれば10.9以下のボルトを使用したほうが無難でしょう。
12.9を使ったらダメってことではなく、どうしても必要であれば定期的に交換するなどの対応が必要です。
原因は「水素脆性」とも言われていて、ねじにかかる応力が1000 MPaを超えると発生しやすいだとか。
六角穴付きボルトは入手しやすいのが強度区分12.9だったりするので、締め付けトルクを控えめにすれば防止できるかもしれません。
まとめ
強度区分ごとの正確な値は下記のJIS規格で確認できます。
- 鋼製ボルト (JIS B1051)
- ステンレス製ボルト (JIS B1054-1)
- 鋼製ナット (JIS B1052-2)
- ステンレス製ナット (JIS B1054-2)
- 平座金 (JIS B1061)