カワハラの、雑多な記録。

ディアウォール1本でテレビを壁掛けするときの強度計算

   

テレビを壁掛けにしたい!
それも壁に穴を開けるのは嫌なので、穴あけ不要なディアウォールを1本だけ使って。

でも多分推奨されてない使い方なので、そんな使い方して大丈夫?って心配になりますよね。
機械設計者として、ひとつ計算してみようではありませんか。

22インチの足ナシ、中古のテレビを壁掛けにしたい

買ったテレビは22インチの小さいやつの中古品です。
SHARP LC-22K45 2018年製。
このサイズでは珍しくフルHD液晶を搭載していて、いざとなればPCのサブモニタとしても使えるんじゃ?と思い選びました。

ただし、足(スタンド)とリモコンが付属していない状態で、その分安いのかなと想像します。
重量は4.8kg。

足がないので、別途アームなどを準備する必要があります。
なんでもいいので安いのを探して、これを選びました。

42インチ、20kgまで対応とのことで、十分でしょう。
このアームをディアウォールで立てた柱に取り付ける予定です。

そもそもディアウォールやラブリコとは?

画像引用元: https://www.wakaisangyo.co.jp/diawall/products/

「ディアウォール」や、類似品で「ラブリコ」といった商品がホームセンターなんかで売ってます。
2×4材(ツーバイフォー材)の上下に取り付け、内蔵したバネで天井と床を突っ張る形で使います。

ディアウォールという商品自体は上の画像の柱の上下についている白い部分です。
柱の2×4材はホームセンター等で安価に売っているので、別に準備する必要があります。

壁や床に穴を開けずに2×4材で柱を立てることが出来て、ちょっとした棚を作ったり、何かを壁掛けしたり、アイデア次第で可能性は無限!みたいな感じです。

我が家でもダイソンのスティック掃除機を壁掛けするのに使っています。

ディアウォール1本で壁掛け可能か?

このディアウォールで、しかも1本だけでテレビを壁掛け可能なのか?というのが今回の本題です。
取り付けイメージとしてはこうです。

小さいテレビなので、行けそうな気もするけど、危ない気もします。
掃除機をかけているディアウォールを引っ張ったりしてみると、やっぱり強い力ではズレてしまいます。

計算してみる

実際にやってみるのが一番ですが、計算にてどんなもんなのか確認してみます。

テレビ設置時に発生するモーメントは?

アームにテレビを固定した場合、柱にどのような力がかかるかというと、柱全体を回転させるような力が働きます。
つまり回転モーメントが発生するということ。

回転モーメントは荷重と長さを掛け算したら求められますが、まず荷重を確認します。
テレビ4.8 kg + アーム 1.52 kg の質量による荷重 → 6.32 * 9.8 = 61.936 [N]

約62 Nの荷重がアーム先端にかかることになります。
もちろんアームの重量は先端に集中しているわけではないですが、安全のために条件が悪い方で考えます。

そしてアームの長さは406 mm。
荷重とアームの長さを掛け算すると、下記のように回転モーメントが求められます。

62 * 0.406 = 25.172 [N・m]

柱が倒れようとする力は?

柱に回転モーメントがかかった場合、柱の下端(床側)はずれず、上端(天井側)がずれて倒れると仮定しましょう。
このとき、上端はどれくらいの力でずれようとしているでしょうか?

発生するモーメントを柱の長さで割ることで、ずれようとする力が求められます。
一般家庭の天井の高さは約2.4mなので、柱の長さは2.4 mとします。

25.172 / 2.4 = 10.4883 [N]

柱上端が約10.49 Nの力でずれようとしているのを、ディアウォールが突っ張る力により生じる摩擦力により耐えている状況です。

ディアウォールはどれほどのモーメントに耐えられる?

ディアウォールはどれほどのモーメントに耐えられるかは、ディアウォールが床と天井を突っ張る力と、天井とディアウォールが接する面の摩擦係数が分かれば計算できます。
ディアウォールは上側にバネが入っていて、圧縮されたバネの反発力で突っ張る力を得ています。

このときの摩擦力が、柱が倒れようとする力より大きければ倒れないことになります。

ディアウォールが天井を押す力

ディアウォールが天井をどれだけの力で押しているかは、残念ながら公開されたデータがありません。
なので、実際に測ってみます。まずディアウォールの寸法を測定。
仕様上天井までの高さより45mm短く2×4材をカットすることになっているので、簡単な足し算、引き算をすると…

使用時は内部のバネを14mm沈ませる設計となっているようです。
適当に測定したので、数mmの誤差がある可能性があることをご了承ください。

で、バネが14mm沈んだ時のバネの反発力が分かればいいわけです。
体重計にディアウォールを乗せて、定規で測りながら14mmバネが縮むまで押してみます。
実測で、14mm沈ませたとき約8kgfの力が必要ということが分かりました!

N(ニュートン)に換算すると・・・
8 *9.8 = 78.4 [N]

78.4 Nの力で天井と床を突っ張っていることになります。

ちなみにばね定数としては、
78.4 / 14 = 5.6
→ばね定数 5.6 N・mmとなります。

※ 適当に測ったので、誤差がある可能性が(以下略)

摩擦係数を設定

ディアウォールが天井を押す力が分かったので、あとは天井とディアウォール上面の摩擦係数が分かればズレに抵抗する力が計算できます。

とはいえ、ディアウォールと天井間の摩擦係数なんて分からないですよね。
なので適当に設定します。
(この値を誤魔化せば、計算結果もいくらかは誤魔化せることになります。)

金属同士の摩擦係数は調べたら色々なデータがでてきますが、鉄同士だと「0.52」だとか。
今回は低めに見積もって「0.2」としましょうか。(適当です)

摩擦力を計算

ディアウォールが天井を押す力と摩擦係数を掛け算して、
78.4 * 0.2 = 15.68 [N]

15.68 Nの摩擦力を発揮してくれることになります。
これ以上の力を柱上部に横方向に加えるとずれるってことです。

設置したテレビとアームによる回転モーメントで、柱上端を横方向にズレさせようとする力は10.49 Nなので、

15.68 > 10.49

となり、一応倒れない計算に。

しかし、
15.68 / 10.49 = 1.4948
→安全率が約1.5なので、かなり不安な数値。

実際は摩擦係数はもっと高い可能性があるし、アームを目一杯伸ばして使わなければもっと有利になります。

ですが、やっぱりこの数値は不安ですよね。

仕様上はこの使い方は推奨外

大方の予想通り、この使い方は公式でも推奨されていません。
ドンピシャの情報ではありませんが、FAQにて「ディアウォールで棚を作る場合、どれくらい棚板を前に出しても大丈夫ですか?」との問いに対して、「40mm」まで、とのことです。

画像引用元: https://www.wakaisangyo.co.jp/diawall/#content05

棚板を大きく前に出すと、柱ごと転倒するおそれがあるためでしょう。
今回やりたい、長さ400mmのアームの先端にテレビを設置するなんて、論外ですよね。

対策を検討する

計算の結果、そのままじゃダメっぽいので、対策を考えてみます。

思いついたのは、ズレないように天井に両面テープで何かを貼ってストッパーにするということ。
あくまで壁や床や天井に穴は一切開けないという方針です。

両面テープにはせん断荷重が加えられるので、使用する両面テープのせん断接着力の試験データがあればより安心ですね。

https://multimedia.3m.com/mws/media/1231473O/410.pdf

こちら、たまたま資料を見つけた3MのY-410という型番の両面テープですが、データシートを確認するとせん断接着力は100 N/cm^2前後はあるようです。(被着体により若干異なる)
天井に貼り付けた場合どうなるかは分かりませんが、アルミやプラスチックに貼ったたった1cm四方の両面テープで100N前後の荷重に耐えられるんだから、十分じゃないでしょうか。

その他検討事項

両面テープを使ったバックアップにより、なんとか使用に耐えそうということにして、他に検討する項目はあるでしょうか。

柱自体の強度

テレビやアームの重量で柱が折れたり曲がったり座屈しないか?
2×4材の柱はそもそも建材で建物にも使えるので計算するまでもなく問題ないでしょう。

アーム自体の強度

この使い方でアーム自体が壊れないかについて、アームを中心に考えると想定通りの使い方なので問題ないでしょう。
耐荷重20kgなので、5kg未満のテレビを付けても問題ないと判断します。

どうしても計算したいなら、アームのパイプ材の曲げ応力、軸のせん断強度、ベース部の曲げ応力などを計算することになります。

アーム取り付け木ネジの引き抜き強度計算

2×4材(SPF材)は比較的柔らかいので、アームを固定する木ネジの引き抜き強度が心配です。
ベース部の縦寸法が210 mm。
端から10mmほど内側に木ネジ2本で固定されています。

計算を簡単にするため、上側の木ネジ1本だけで荷重を負担するとしましょうか。
アームのベース部下端から200mm(0.2m)の位置に上の木ネジがあり、テレビとアームの重量により生じるモーメントが先程の計算より25.172 N・mなので、

25.172 / 0.2 = 125.86 [N]

→上の木ネジには125.86 Nの引き抜き荷重が生じます。

木ネジがこの引き抜き荷重に耐えられるか、ですが機械設計ではあまり木ねじを使わないので、どうやって計算したらいいんでしょうか?
調べたら下記の資料で計算方法が載ってたので参考にしてみます。

木ネジの許容引き抜き耐力
https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/1410/1410-4.pdf

詳細はこちらの資料を確認してもらうとして、計算に必要なパラメータとして「木材の基準比重」、「木ネジの呼び径」、「有効打ち込み長」が分かれば計算できます。
SPF材は「スプルーフ」、「パイン」、「ファー」の略らしく、資料によるとスプルーフの基準比重が「0.32」とのことです。

下記のパラメータを設定し、計算してみました。

項目 備考
r_0 (木材の基準比重) 0.32
d (木ネジの呼び径) [mm] 4
L_t (木ネジの主材への有効打ち込み長) [mm] 30
期間 1.1 長期(50年)
環境 1 通常の使用環境

P_a=1/3×38.1×〖0.32〗^1.5×4×30×1.1×1
=303.5 [N]

引き抜き力が125.86 Nにたいして303.5 Nまでは耐えられる計算となり、もうちょっと欲しい気もしますがまあいいでしょう。
引き抜き強度は許容範囲内とします。

天井や床が凹まない?

ディアウォールの仕組み上、床や天井の強度が低いと使うことが出来ません。
内部のバネを14mm程度圧縮させることで固定力が生まれるので、ちょっと押したらすぐに持ち上がってしまうような華奢な天井だと固定できないことになります。

極端な例ですが、14mm天井が浮いちゃったら固定力はゼロになります。
床は普通は丈夫に出来てますが、天井がしっかりしているか確認しておきましょう。

テレビのその後

これだけ検討したんだから、買ったテレビはちゃんと設置できたとお思いでしょう。ところが・・・

現状こうなりました!

なんと、壁掛けにすること自体が試すことなく見送られてしまいました。
このテレビを使う予定の嫁から、壁掛けはやめろと指示があったのでやめました。
安全上の理由、とかではないと思います。

アームかっちゃたぞ、どうするんだ?と思いきや、本来の使い方ではなく偶然ですが、スタンドみたいに使えたので、普通に置いて使っています。

無駄にならなくて良かった…

まとめ

計算結果が間違ってなかったか、実際に試してみたかった気持ちはありますが、これで良かったのかもしれません。
天井の強度という不確定要素が残っていたので、万が一倒れて怪我をせずに済んだと考えることにします。

 - 機械設計